書評

書評:LAST CHRISTMAS 現代の眠れる森の美女

「現代の眠れる森の美女」、ナルコレプシーのヒロインのお話を読みました。睡眠文化ライブラリーでこの本を教えていただいたのがきっかけです。

ナルコレプシーのヒロインに恋をした男の子の視点で進む物語です。面白かったのでレポートします。

LAST CHRISTMASを読んで

著者:村石圭

彼女は17歳でところかまわず眠り込むナルコレプシーの女の子。現代の「眠れる森の美女」をめぐるさわやかであたたかくてとても不思議なラブメルヘン。
出典:出版社内容情報より引用

全部で178ページの小説です。初版は1991年12月24日。タイトルと関係があるのかは不明ですが、クリスマスイブに出版されたんですね。

 

残念ながらすでに絶版になっているようで、私は中古で手に入れました。帯付きで手に入ったのは運が良かった。

 

著者の村石圭さんは本作がデビュー作だそうですが、この後は書かれていないようです。調べても情報が何も見つからず。謎に満ちた方のようです。

登場人物

彼女は17才で、所構わず眠り込むナルコレプシーの女の子だった。

彼女は将来有望の天才バレリーナとして期待を独り占めした。

 

彼女は、その美貌と才能を買われて、眠れる森の美女のプリマに大抜擢。

 

ところが、病気の始まりが不運にも舞台の上だった。

 

彼女は突然眠り込んで床に倒れ、公演は台無しになる。

出典:ラストクリスマス 本文より

突然眠りに落ちる病気、ナルコレプシー。舞台の上で眠りに落ちた「彼女」は、現代の眠れる森の美女と呼ばれるようになり、皮肉にも病気で脚光を浴びることなりました。

 

話題目当てに脚光を浴びてしまったことと、舞台で失態を見せたことに失望した彼女は、その後バレエを辞めてしまいます。

 

いっぽう、もう一人の主人公である「僕」は、作家志望の19才。物語は「僕」の視点で進んでいきます。

 

「僕」は誘惑の絶えない都会で暮らしているせいか、夜通し飲み歩き、怠け癖がついていました。

 

クリスマスが近付いた頃のこと。怠けた生活にブレーキをかけて執筆活動に集中するため、「僕」は都会を離れ、叔父から借りた田舎の別荘にしばらく滞在することにしました。

 

「僕」が借りた別荘の隣に住んでいたのが、「彼女」でした。

 

現代の眠れる森の美女

眠れる森の美女として有名になった彼女のもとには、記事にしようと時々マスコミが押しかけました。

 

「僕」がまだ別荘に来て間もない頃、マスコミが彼女の別荘に押しかけて、無理やり写真を撮ろうとしていました。それに気付いた「僕」は、慌てて家から飛び出し、記者の男を追い払おうとします。

 

そんな「僕」に、「彼女」は恋をするのでした。

「毎日、懲りずに幾度も睡魔が訪れて、気まぐれに私の人生の邪魔をするの」
出典:ラストクリスマス 本文より

この小説、言い回しがすごく綺麗なんです。最初から感動しっぱなし。でも、私も同じ病気なのでヒロインのこの気持ちはすごくよくわかります。

 

このヒロインはナルコレプシーの中でも程度が重く、主治医は「ギネス級の過眠症」だと言います。

 

舞台で踊っていようが、街で歩いていようが、電話ボックスで電話していようが、眠りに落ちてしまいます。ひどい時は、食事中にサラダボウルに顔を突っ込んで眠ってしまうほど。私はここまでひどくはないので、読んでいて驚くことばかりでした。

 

好きなシーンをいくつか引用します。

「私はアイロンがけが好きで、衣服のシワが見逃せない几帳面な性格なの」

 

「きみは家庭向きの女性というわけだ」

 

彼女は背中から上着を出すと僕に渡した。

 

「まさか、アイロンがけの最中に睡魔が襲いかかるなんて思わなかったのよ」

 

上着を広げてみると、真ん中に大きくアイロン型に焦げた穴が空いていた。

 

「ごめんなさい」

 

僕は上着の焦げた穴から腕を出すと、がっくりと肩を落とした。

遊園地に行こうと彼女にせがまれ、僕は付き合うことにした。僕は車の中でタバコを吸いながら、彼女の着替えを40分も待ち続けた。

 

煙草が最後の一本になった時、我慢が限界に達し彼女を呼びに行った。彼女はクロゼットでぬいぐるみをまくらにZ Z Z、と寝息を立てて眠っていた。

 

「着替えたかったのに。眠ってるすきに無理やり車に乗せるなんてルール違反よ」

 

「目が覚めたら遊園地なんて素敵だろ」

私はこの厄介な病気で大勢の人に散々迷惑をかけて嫌われてきたわ。他の男なら、呆れてそっぽを剥くのになぜ、あなたはいつも優しいの?

 

僕は笑顔で間をあけて、彼女の顔を見ながら、どう伝えるべきか迷っている。彼女には独特の不思議な雰囲気が漂い、それが僕を引きつけて話さなかった。

全てラストクリスマス本文からの引用です。

 

睡眠発作のせいで彼の服をダメにしたり、彼に待ちぼうけを食らわせたり。ギャグ要素も程よく練りこまれているのに、恋愛物ならではのときめきもたくさん詰め込まれています。

 

彼女もなかなか不思議な雰囲気の女性ですが、彼もいい味出してるんですよね。

 

引用した部分を読んだだけでもわかると思うのですが、「僕」は「彼女」をめちゃくちゃ大切にしているめちゃくちゃいい男なんです。何度も眠りに落ちる彼女に苛立つことなく、どんなときでも彼女を大切にしているのがわかります。

 

この本は甘いだけではありません。彼女はどこでも眠ってしまうので、眠っている間に男に襲われそうになったりもします。それでも、彼は彼女を全力で守ろうとしました。

僕は二人を見つける。スケボーを振り上げながら、男の背後に回り込んだ。ばき!と鈍い音がして、男がパンツをおろしたまま彼女に倒れ込んだ。彼女は男を蹴飛ばして立ち上げると、下着姿のまま涙顔で僕に抱きついて来た。

 

僕たちが気絶した男の処分に困っている時に、巡回中の警官のライトを浴びた。
出典:ラストクリスマス 本文より

かっこいいんですよ、「僕」。本当に夜通し飲み歩いて怠け癖がついてしまった男性なのかしら、とてもそうとは思えないですね。

 

物語の最後に、彼は彼女との出来事を一冊の本にまとめています。それがラストクリスマス。だから出版日がクリスマスイブなのかな?凝ってる〜!

独特なレイアウト

こちらが小説の本文の写真です。

 

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わかるでしょうか?小説というより、レイアウトだけ見ると詩の本のようですよね。178ページあり、厚さも結構あるのですが、難しい言い回しも少ないので、スラスラ読めます。もう27年前の本ですが、古い感じは全くしません。

ナルコレプシーのひとにも、そうじゃない人にも読んでほしい一冊

残念ながら絶版になっているので入手は難しいですが、私たちナルコレプシーの患者はもちろん、そうじゃない人も楽しめる本だと思います。機会があれば、ぜひ手にとってみてくださいね。